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日本の皇室御料車

皇室と初期自動車との関わり

 日本のVIPカーとして天皇の御料車を紹介します。皇室に関わる自動車の話として、まず日本に初めて持ち込まれたとされる自動車の話から始めたいと思います。各種書物の記述によると、それは明治32年(1899年)のことで、アメリカのサンフランシスコに在留していた日本人が大正天皇(当時は皇太子)のご成婚を祝福して電気自動車を献上したというものです。またこの車を皇居で試運転したときに運転を誤ってお濠のなかにつっこんでしまい日本初の交通事故をおこしたということも言われています。この話は事実かどうかははっきりしないのですが、「ギネスブック 自動車」の日本篇に載っていて全くの作り話でもなさそうなので紹介しました。なお同じ頃にアメリカ製のロコモビル社の蒸気自動車を横浜在住の外国人が輸入していて、こちらのほうが最初に持ち込まれた自動車とも言われています。

最初の御料車

 さて皇室で公式に自動車が使われたのは大正天皇の時代からです。明治天皇は自動車を使われなかったようですが、明治の末に自動車を採用することが決まり、御料車を購入するために調査団がヨーロッパに派遣されます。調査団はディムラー、メルセデス ベンツ、フィアットを訪問し最終的に御料車に決まったのはディムラーでした。理由は明治時代後期に結ばれた日英同盟(1921年に失効)で、この当時皇室がイギリス王室と親しい関係であったことが大きかったようです。

 

 このとき購入された御料車は2台で、一号車は1912年式の大型の7人乗りリムジーン、二号車は7人乗りランドレー(後席の屋根のみが幌になっている形式)で大正2年(1913年)から使用されました。この一号車はイギリスのジュージ5世の御料車と全く同じ型で、この御料車についてはイギリスのVIPCARのページでも紹介しています。イギリスのVIPCAR作成時点ではボディ形式などがはっきりしなかったので、同時期のディムラーの画像を掲載しました。(2012年3月にイギリスのVIPCARにディムラーの画像を追加しました)

 

 今回実車の画像が見つかったので、ここではより実車のイメージにより近いロールスロイスの画像を掲載します。フロントグリル部分を除けばほぼそっくり同じボディです。(画像はランドレーですが、画像を加工してリムジーンを再現してみました)

 なお実車はボディカラーが溜色(ためいろ:濃い栗色)で側面のドア部分に菊の御紋章が付いています。この御料車のスタイルはイギリス王室と同じで、その後の御料車にも継承されていきます。

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ROLLS-ROYCE SILVER GHOST 1912 MATCHBOX製 1/48
マウスカーソルを画像の上に載せるとリムジーンに変わります
 この当時御料車以外にも、外国の賓客用や天皇以外の皇族が使うためにディムラー、メルセデス、フィアットが購入され、宮内省に自動車部が設けられて自動車の正式使用が始まったそうです。ただし、公式の行事で使用されたのは伝統のある馬車でこれは戦後の昭和30年代まで続いたそうです。

2代目の御料車

 大正10年(1921年)に古くなったディムラーの代わりとして、2台のロールス ロイスが新しい御料車となります。1920年式のシルバー ゴーストでフーパー製のリムジーン ボディが架装されていました。イギリス王室ではまだディムラーが御料車だったのですが、何故か日本ではイギリス王室に先駆けてロールス ロイスを御料車に採用していたことになります。

 

 シルバー ゴーストのリムジーン ボディのミニカーの手持ちがないので、ほぼ同時期のオープン ボディのミニカーを掲載します。この御料車のリムジーン ボディも上記の初代御料車とほとんど同じような形式(少しだけ新しくなっていますが)で、後席はしっかりとした客室となっていますが、運転席は屋根があるだけで窓ガラスはありません。

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ROLLS-ROYCE SILVER GHOST 1925
FRANKLIN MINT製 1/24
マウスカーソルを画像の上に載せると画像が変わります
  大正時代の末期には金融大恐慌が起こり、政治的なテロなどが頻発するなど物騒な世相だったそうで、御料車が発砲される事件(大正12年の虎ノ門事件)まで起こっています。このような社会情勢からもっと安全な御料車が必要となり、御料車のボディを装甲板で防護する計画があったそうですが、結局うまくいかなかったそうです。

3代目の御料車

 そんなわけで、昭和7年(1932年)頃に新しい御料車が導入されます。3代目の御料車はメルセデス ベンツ 770K いわゆるグロッサー メルセデスです。何故グロッサー メルセデスになったのかというと、当時の日本がドイツ イタリアの枢軸国寄りに傾いていたことが大きく関係していると思います。また頑丈な車という観点からは、ロールス ロイスよりメルセデスという車種選択はなんとなく分かるような気がします。

 

 1930年に発表された初代のグロッサー メルセデスは、ドイツのVIPCARのページでも紹介していますが、国家元首などの公用車として開発された車で 7.7L スーパーチャージャー付き直列8気筒エンジン(200HP)を搭載し最高速160km/hを誇る車です。たった117台しか製作されていない超高級車ですが、日本の皇室はプルマン リムジンを7台輸入しています。ただし皇室が購入した車のエンジンはスーパーチャージャーのつかないタイプ(150HP)で、日本の道路事情に合わせたおとなしいタイプでした。

 

 7台のうち2台は陸軍工兵工廠で防弾装甲ボディに改造されています。10mの至近距離から発射された機銃弾にも耐えられるよう、ボディ外板は厚さ5mmの装甲版に変わり、地雷を想定してボディ下面も装甲され、窓ガラスは3枚重ねになっていたそうです。当然のことながら、重量は4.2t(標準2.7t)にもなりこの重さに耐えられて釘を踏んでもパンクしない特注タイヤを横浜ゴムが開発して納入したそうです。

 

 この車はすばらしく出来の良いミニカーがあります。昭和天皇のご即位60年を記念して作られたもので、1986年に専用の陳列ケース付きで発売されました。実車は現在もダイムラー ベンツ博物館に展示されていますが、ミニカーはこの実車をダイムラー ベンツ社(当時)の公式認定 監修の元にモデル化したという物です。メーカーはPMA(Paul's Model Art:現在のミニチャンプスの前身)だと思われます。

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MERCEDES-BENZ 770K EMPEROR HIROHITO 1935 PMA製 1/24
マウスカーソルを画像の上に載せると画像が変わります (右側の画像はクリックするとさらに画像が変わります)
 

 スケールが大きいので細かいところまでよく再現されています。まずフロント グリルには菊の御紋章があり、月桂樹で御紋章を囲んだデザインの特別のマスコットもついています。後部ドアにも菊の御紋章がついています。屋根の前端の左右についているのは天皇陛下がお召しになっていることを示すパイロット ランプでイギリス王室の御料車にも同じようなものがあります。

 

 特に素晴らしいのが室内の造形で、天皇がお掛けになる玉座は宮内省が支給した西陣織で出来ていたそうですが、ミニカーの玉座も高級そうな布で出来ていて雰囲気がよく再現されています。向かい合わせにある本革張りの侍従用シート、マホガニーのウッドパネルのドア内張、赤い絨毯の床などもそれらしく再現されています。

 

 御料車の前後のバンパーには「皇1」と書かれた丸いライセンス プレートがついていますが、博物館展示車には付いていない為それは再現されていません。

 なお2006年に、この御料車が1/43サイズでミニチャンプスから発売されています。ドア開閉などの可動部分はありませんが、この1/24サイズをそのまま縮小したような感じでそちらもよく出来ています。

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室内と菊の御紋章   マウスカーソルを画像の上に載せてください 
 

戦後の御料車

 第二次大戦が敗戦で終結し、天皇は人間宣言をして国民の象徴的な存在になりました。その後国民を慰め励ますことを目的として天皇の全国巡幸(昭和天皇が沖縄を除く46都道府県を巡るというもので、昭和29年まで行われた)が始まります。770Kはこの全国巡幸でも御料車として使われ、「天皇陛下の赤いベンツ」としてよく知られることになったのです。ただ戦前から20年以上も使われてきた770Kはさすがに老朽化し、代わりの車が検討されるようになりました。

 正式な御料車ではありませんが、代わりの車としてロールス ロイスのシルバーレイス リムジーン(1957年)とファントム V リムジーン(1961年と1963年)が購入されて使われたとのことです。この当時の国家元首クラスが使う車となると、やはりロールス ロイスしかなかったと思いますので、これは妥当な選択でしょう。ちなみに770Kの後継となるベンツ600が登場したのは1963年でしたので、その当時はまだ選択肢には入っていませんでした。

 

 これらのロールス ロイスがどのようなものであったか、手持ちのミニカーで紹介しておきます。まず左側ですが、これは日本のサクラ製でつくりはかなり甘いですが、実車(シルバーレイス)のフーパー社製リムジーンのスタイルによく似ています。右側はディンキーのファントム V リムジーンで、1961年に購入された実車とほぼ同じタイプです。(1963年に購入されたファントム Vは同じボディ形式で4灯式) なおミニカーは明るい色のツートン カラーになっていますが、皇室で使用された実車はもちろんフォーマルな黒です。

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ROLLS-ROYCE SAKURA製 1/43
ROLLS-ROYCE PHANTOM V DINKY製 1/48

国産の御料車 プリンス ロイヤル

 次に正式の御料車となったのは、つい最近まで使われていてなじみのあるプリンス ロイヤルでした。この車は1966年の東京モーターショーで公開され、翌年宮内庁に6台が納入されています。この車については「天皇の御料車」(二玄社 別冊CG)という書籍が出版されていて、その開発の経緯などが詳しく記述されています。その本から、かいつまんでこの車の内容を紹介します。

 

 まず、何故御料車がプリンス自動車工業(以下プリンスと略す)に発注されたのかですが、これは「皇太子がプリンス グロリアを愛用されていて、宮内庁との連絡にプリンスがいちばん経験があったから」ということのようです。またプリンスが都内にあり、メンテナンスや連絡などに都合が良かったということもあるようです。なお御料車の開発はプリンスで行ったのですが、日産と合併した後で宮内庁に納車したので、この車の正式な名称は「ニッサン プリンス ロイヤル」です。

 次に、この車の主要な仕様と性能です。8人乗りのリムジーンで、サイズは全長6155mm 全幅2100mm 全高1800mmで重量は約4000kgと諸外国のVIPカーにひけをとらない大きさです。エンジンはプリンスがこの車のために開発したV型8気筒OHV 6.4L 260HPで、GM製3速オートマチック変速機で後輪を駆動し、緊急時には160km/hで走行可能という性能でした。エンジンだけではなく補機類なども全て内製でしたが、変速機だけは開発期間(2年半)が不足しやむなくキャディラック用のものを使ったようです。車重が重いのでかなり丈夫に造られているとは思いますが、防弾などのセキュリティ仕様についてはガラスが投石などに耐える合わせガラスだったことぐらいしか書かれていません。(40年も前のことですから現在とは全く環境が違います)

 

 シャーシ関係はサスペンションが前輪ダブルウィッシュボーン、後輪リーフスプリング固定式とごくオーソドックスな構造です。ステアリングは車重が重いので、当然ですが油圧式のパワステ付きです。また故障が許されない御料車ゆえ、ブレーキ(ドラム式)と燃料供給系は完全な二重系統となっています。この重量を支えるタイヤも当時としては特別に大きい15インチサイズで、この車のためだけにブリジストンが製作したそうです。ただし昔のことですから、防弾仕様(ラン フラット)などといった特別なものではないようです。

 

 ボディ デザインは基本的には極めてシンプルな箱形で、後部ドアはこの手の車の定番である観音開きです。車の顔であるフロント グリルには当時開発中であったグロリア A30の特徴的な縦長デュアル ヘッドライトのモチーフが使われ、個性的で威厳のあるデザインになっています。リアもフロントに合わせて縦長のテールライトとなっていて一貫したデザインでした。なおテールライトのレンズは外側のカバーが白色で、点灯したときだけ赤く見えるといった凝った構造になっていました。意図したわけではないでしょうが、御料車のデザインはその後発売された新型グロリアにとってかなりのPR効果があったのではないかと思います。

 

 内装関係ですが、運転室と後席の間には固定式のガラスの仕切があり、連絡用の電気式インターフォンとそれが故障したときの為に蓋付きの伝令管が付いていました。後席には侍従用の補助席があり乗車定員は8名です。運転席はリムジーン伝統の革張りで、玉座のある後席はウールが使われていました。その他の内装には西陣織なども使用されていたとのことです。当時の日本車には暖房用ヒータはありましたが、クーラーまで装備された車はありませんでした。しかしさすがにこの車には冷暖房(主に後席用)が装備されていました。室内の写真をみると玉座の前にはカクテル キャビネットが備え付けてあり、その上にはインターフォンのスピーカーらしきものが付いています。多分ラジオぐらいは聞けるようになっていたとは思いますが、それ以上の特別な装備はないようです。

 この御料車は日本製ミニカーの老舗メーカーであるダイヤペットがモデル化しています。

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 NISSAN PRINCE ROYAL DIAPET製 (初期型) 1/45
マウスカーソルを画像の上に載せると画像が変わります (右側の画像はクリックするとさらに画像が変わります)
 
 このミニカーは1975年に発売され、当時の定価は900円でした。ダイヤペットの標準スケールは1/40ですが、この車は大きいので1/45で作られています。実車のカラーは黒だけですが、ミニカーには茶メタリックと小田急デパートの特注品で銀メタリックがありました。さらに特製の木箱に入った金メッキの限定品(18,000円)も販売されました。側面にある菊の御紋章にはシール(初期型)と型彫り(後期型)の2タイプがあります。

 

 ダイヤペットは基本的には子供向けのおもちゃでしたので現在のスケールモデル的なミニカーとは比較できませんが、これはそれでもかなりがんばって実車を再現してあると思います。御料車をモデル化するのですから、並の車とは力の入れ方が違っていたはずです。その証拠にダイヤペットでは簡単にとれてしまうようなパーツは付けないのですが、このロイヤルではボンネットのマスコットをかなり大きめですが再現してあります。不格好ですが、当時のダイヤペットとしてはぎりぎりの妥協点だったと思います。このマスコットは6角形のなかにP(プリンスのP)が付いたもので、プリンス車であることを示すものです。(プリンス グロリアにも同じような物が付いています)

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カラーバリエーション(茶メタリック)
金メッキ限定品
  
 皇室の車にはライセンス プレートの代わりに御紋章のプレートが付いていますが、フロント バンパーの上にはこのプレートが再現されています。実車はトランクにもプレートが付いていますが、それは再現されていません。室内はリア ドアが開閉しないこともあって、細部は再現されておらず補助席があるのが分かる程度です。余談ですが外国の御料車ミニカーのように旗やフィギュアをつけたものはまだ実現していません。皇室の許可が出ないのか、おそれおおくて作れないのか分かりませんが、日本では無理なようです。

 

 1989年に昭和天皇が亡くなられて、その葬儀である「大喪の礼」ではプリンス ロイヤルの一台を改造した寝台車が霊柩車として使われていました。プリンス ロイヤルはその後も現在の天皇がつい最近までお使いになっていましたが、老朽化したせいか近年はだんだん出番が少なくなっていました。最近ではプリンス ロイヤルの代わりに菊の御紋章を付けたトヨタのセンチュリーが使われているのを、TVでよく見かけるようになっていました。

 実際に2004年には製造元の日産自動車が宮内庁に使用中止を要請していたようです。その要請に答えて宮内庁は後継としてトヨタ自動車のセンチュリー ロイヤルを選定したことを2005年に発表しました。しかしそれ以前からセンチュリーは使われていたようですから、もっと前から後継は決まっていたのだと思います。現在の日本の自動車業界でトヨタは圧倒的に強い立場ですから、他の会社が御料車を引き受けることは考えられないので当然といえば当然ですが。ただ現在では無理ですが、10年前なら日産のプレジデントも皇室関係の車両として使われていたので、プレジデントという可能性もあったとおもいます。

最新の御料車

 最新の御料車であるセンチュリー ロイヤルの概要です。8人乗りのリムジーンで、サイズは全長6155mm 全幅2050mm 全高1770mm 重量は約2900kgでエンジンはセンチュリーと同じV型12気筒 5Lです。サイズはプリンス ロイヤルとほぼ同じですが車重はかなり軽くなっています。(多分この車重には防弾装備が含まれていないと思います) 宮内庁には4台(1台は寝台車仕様)が納入される予定だそうで、公表された価格は1台5,250万円となっています。数台しか作らない試作車的な車がこんなに安いわけはありませんが、トヨタとしては御料車が持つ潜在的な宣伝効果とその名誉を考えればいくらでも良かったはずです。外観は市販型のセンチュリーのイメージを残したデザインとなっていますが、元々センチュリーは重厚なデザインでしたから御料車のデザインとしては良い線をいっていると思います。
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TOYOTA CENTURY 2005 TOSA COLLECTION製 1/43
 
 2019年4月30日に天皇陛下(明仁さま)が退位され、当時の皇太子徳仁親王さまが5月1日に新天皇に即位されました。天皇の退位による代替わりで、元号は平成から令和に変わりました。10月22日に「即位の礼」の儀式が行われ、その後に行われた祝賀パレード「祝賀御列の儀」には、トヨタ センチュリー (3代目 UWG60型)をベースにしたオープンカーが使用されました。この車はセンチュリー セダンの屋根を切断してオープンカーに改造したもので、全長5.34mX全幅1.93mのサイズはセダンと全く同じです。室内は白の本革張りで、パレード用の車ですので、沿道から両陛下の姿がよく見えるよう、後部座席は標準よりも4センチ以上高くなっているそうです。座席後部にスペースがありますので、そこに幌を収納しているようです。(幌を展開した状態の画像は公開されていないので、幌がどのようなものか分かりませんが)

 

 この車は平成の時代の1993年に当時の皇太子徳仁親王さまの御成婚祝賀パレードに使用されたロールス ロイス コーニッシュのオープンカーを代替することになりました。このような公式行事(パレード)に使うオープンカーは乗り降りがし易い4ドア コンバーチブルを使用するのが一般的でしたので、2ドア コンバーチブルのコーニッシュのオープンカーは公式行事にはあまりふさわしい車ではありませんでした。今回この国産車のトヨタ センチュリーの4ドアオープンカーを宮内庁が保有することになり、今後の各種公式行事にこの国産の最高級車が使えることになったのはとても素晴らしいことだと思います。


 以下は2020年に発売されたハイストーリー製のセンチュリー コンバーチブルのミニカーです。ミニカーの台座にはセンチュリー コンバーチブル(CENTURY CONVERTIBLE)という名前が銘記されていますが、これが正式な名前であるのかどうかは不明です。フロントグリルやホイールに付けられた鳳凰のエンブレムや室内の造形などの細部が良く再現されているなど実車に忠実にモデル化されていて、全体的に良い出来ばえに仕上がっています。なおできればナンバープレートに皇室の公用車であることを示す菊の御紋章を付けて欲しかったところですが、それには宮内庁の許可が必要なのでしょうか? なおハイストーリー製のミニカーはレジン製で、最近のレジン製ミニカーに共通するあまりよろしくない部分があります。その件については何度も同じことを書きたくないので、知りたい方は同じハイストーリー製のマツダ RX-7 カブリオレの解説欄に記載していますのでそちらを参照してください。(画像のマウスオーバー又はタップで画像が変化します)

TOYOTA CENTURY CONVERTIBLE 1
TOYOTA CENTURY CONVERTIBLE 2

 

以下はフロント/リアの拡大画像です。(画像のマウスオーバー又はタップで画像が変化します)

TOYOTA CENTURY CONVERTIBLE 3
TOYOTA CENTURY CONVERTIBLE 4

 
 

その他VIP車 皇室関連車両

 以上 戦後の御料車を紹介しました。以下は御料車ではありませんが、皇室で使われていた車やVIPカーとして使われていた車を紹介します。

 

 現在の天皇陛下は学習院大学在学中(当時は皇太子)に、運転免許を取得されています。(一般人と同じ試験を受験されています) 最初に購入された車は、1954年のプリンス セダン(AISH-1型)でした。皇太子(プリンス)がプリンスを購入されたわけですが、もともとこの車の名前の由来は皇太子の立太子を記念したものだったそうです。日産でもトヨタでもなくプリンス自動車の車を購入された理由は、主に当時の皇太子の人脈によるものだったそうです。

 プリンス セダンのミニカーは残念ながらありません。画像は1957年に発売された初代スカイライン(ALSI-1型)のミニカーです。4気筒1.5L(60HP)エンジンを搭載し、当時の1.5Lクラスでは最速でした。この車も皇太子が購入されています。

prince skyline 1957
PRINCE SKYLINE 1957 NOREV製 1/43
 

 皇太子がプリンス自動車を選ばれたのは人脈がらみだと書きましたが、プリンス車が技術的にも優れていたことも大きな要因であったと思います。そんなわけで皇太子はプリンスの新型を次々と乗り換えられていきました。初代スカイラインの上級車として1959年に発売された初代グロリア(BLSI型)は、4気筒1.9L(69HP)エンジンを搭載していました。この車も発売されて直ぐに、皇太子が購入されています。

 

 なお上述した皇太子のスカイライン(ALSI-1型)には通常の1.5Lエンジンではなく、このグロリアに搭載した1.9Lエンジンのプロトタイプが搭載されていたということです。(要するに特注車だったということ) ミニカーは1980年頃に発売されたカドー(可堂玩具)製で材質はホワイトメタルです。

prince gloria 1959
PRINCE GLORIA 1900  1959 KADO製 1/43
 
 1962年に登場した2代目のグロリア(S40型)です。当初は4気筒1.9Lエンジンでしたが、1963年に直列6気筒2.0L(105HP)エンジンを搭載したグロリア スーパー6(S41D型)、1964年にはエンジンを2.5Lに拡大した3ナンバーのグランド グロリア(S44P型)が追加されました。1966年にはプリンスと日産が合併し、ニッサン プリンス グロリアとなりました。当時のアメリカ車(シボレー インパラなど)をお手本にしていますが、なかなか個性的なデザインだと思います。

 グロリア スーパー6、グランド グロリアも皇太子が使用されています。特にグランド グロリアは皇太子の要望で後席部分を100mmストレッチした特注車だったとのことです。
prince gloria 6 1963
PRINCE GLORIA 1963 EBBRO製 1/43
 

 1967年に登場した3代目グロリア(A30型)です。上述した御料車プリンス ロイヤルと同じ縦長デュアル ヘッドライトがデザインの特徴です。(このデザインもキャディラックなどのアメリカ車がお手本ですが) プリンスと日産との合併で、宮内庁に納入する車はプレジデントに切り変えられていったようですので、このA30型は皇室ではあまり使われなかったのかもしれません。

 当時ライバルだったトヨタには、1964年に登場したV型8気筒2.6Lエンジンを搭載したクラウン エイトがありました。こちらは佐藤栄作総理大臣の公用車に使われた?ということがWikipediaに書かれていますが、プリンスを贔屓にしていた宮内庁関係にはあまり使われなかったのではないかと思います。

nissan gloria 1967
NISSAN GLORIA 1967 NOREV製 1/43
 

 1965年に登場した日産の最上級車 初代プレジデント(150型)です。エンジンはV型8気筒4Lと直列6気筒3Lの2タイプで、5mを越える全長で当時の国産乗用車の中で最大の車でした。当時の宮内庁や政府の公用車として、TVなどで見かけるのはこの初代プレジデントが多かったと思います。また1970年代以降の皇太子の公用車はボディ側面に皇室の紋章を付けた黒塗りのプレジデントでした。

 

 初代プレジデントのミニカーはダイアペットの初期物がありますが、滅多にお目にかかれないレア物で私は持っていません。画像はIIADO製のアンチモニー製ミニカーで、これは今でも入手可能です。皇室の紋章(シール)を後部ドアに付けた、皇太子御料車仕様バリエーションもあります。

nissan president 1965
NISSAN PRESIDENT 150型 1965 IIADO製 1/43
   
 1973年に登場した2代目プレジデント(250型)です。全長を200mm長くしてフロントグリルとリアエンドのデザインを大幅に変更したので見た目は変わっていますが、シャーシ部分は150型を踏襲しています。(なおV型8気筒エンジンは排気量を4.4Lに拡大しています)。

 

 250型はこのデザインで1990年まで長い間生産されました。オーソドックスなデザインなので、150型同様に宮内庁や政府の公用車として多く使われたようです。しかしこの後の三代目(JG50型)はデザインが個性的過ぎて公用車向きではなかったので、ライバルのセンチュリーの株を上げてしまいました。このダイヤペット製のミニカーはフロントグリルが上下方向に厚ぼったく余り良い出来ではありません。

nissan president 1973
NISSAN PRESIDENT 250型 1973 DIAPET製 1/40
 
 1990年に皇室の公用車として導入されたロールス ロイスのコーニッシュ コンバーチブルです。現在の今上天皇が即位された時のパレードや、現皇太子が成婚された時のパレードで使われました。ロールス ロイスでもこのコーニッシュ(特にコンバーチブル)はプライベートな使い方をされる遊び車です。従って本来は公式行事に使用するような車ではありません。公式行事(パレード)に使うオープンカーは乗り降りがし易い4ドア コンバーチブルを使用するそうで、フランスのシトロエン SM パレードカーはその代表例です。(宮内庁には適当な4ドア コンバーチブルが無いようです)

 

 ミニカーは1978年頃に購入したポリスティル製です。コーニッシュ コンバーチブルのミニカーは量産品ではこれしかありません。やや重厚さに欠ける出来映えですが、当時のミニカーとしては良い出来の部類です。

RR corniche
ROLLS ROYCE CORNICHE CONVERTIBLE  1971 POLISTIL製 1/43
 
 トヨタの最上級車レクサスの国内仕様であったセルシオです。セルシオは「シーマ現象」と呼ばれるほど大ヒットした日産のシーマに対抗する為、1989年にクラウンとセンチュリーの間に位置する高級車として登場しました。1994年と2000年に2回モデルチェンジしましたが、2006年からはレクサスに統一されてセルシオという名前は消えました。


  画像は初代のセルシオで、エンジンはV型8気筒4Lを搭載、電子制御エアサスペンションや自発光式メーターなどの先進技術が採用されていました。ただ見た目はオーソドックスで地味なデザインでしたので、公用車に向いていたと思います。宮内庁公用車や首相専用車に使われたセンチュリーより格下の車ということで、警備用の車としてよく使われていたようです。

celsior 1992
TOYOTA CELSIOR (UCF11) 1992  TOSA COLLECTION製 1/43
 
 現在のトヨタのラインアップの最高級車レクサスです。(センチュリーは別格です) LSはレクサスの最上級バージョンですが、特に2007年に登場したこの600hLはハイブリッド仕様のロングホイールべース版でトヨタの最高価格車(約1500万円)です。LS600h専用のV型8気筒DOHC5.0L エンジン(394p)と最高出力165kW(224HP)のモーターを搭載し、6Lエンジン相当のパワーを有するということで600という名前が付いています。

 

 首相専用車にはセンチュリーが使われてきましたが、昨今のエコ意識の高まりから、このLS600hLが2008年から首相専用車として使われています。なお首相専用車は防弾ガラスや特殊鋼板による装甲が施された特別仕様車です。2010年にRAI'Sがこのミニカーをベースにして首相専用車をモデル化しています。それには無線アンテナや後席のカーテンなどが追加されています。

lexus ls600hl
TOYOTA LEXUS LS600hL (UVF46) 2007  J COLLECTION製 1/43
 

2007年08月作成  日本のVIPカーとして戦前の御料車(BENZ 770Kまで)を紹介
2008年09月  戦前の御料車 日産 プリンス ロイヤルなどを追加
2009年09月  プリンス スカイライン、グロリアなどを追加     
2010年04月  ロールスロイス ファントム V、ロールスロイス コーニッシュを追加
2010年10月  トヨタ セルシオ、レクサス LS600hLを追加

2015年06月  スマホ版ページ追加

2020年09月  トヨタ センチュリー コンバーチブル 追加

参考文献 二玄社 別冊CG「天皇の御料車」 著者:小林彰太朗